登山で大切なことは下山までマイペースを貫くこと
この写真は左から隕石が飛んできているわけではなく、普通に太陽が沈みかけているだけなんですが…アフリカ大陸で一番印象に残ったことを挙げるとすれば「どこまでも広がる空」です。そんなことは横に置き、これは5日目午後のワンシーン。
5日目の前半戦はなんとか2人共にステラポイントまで到達することができ、互いに疲労困憊でも「キリマンジャロに登る」という目的を果たすことが出来ましたが後半戦はドタバタな展開でした。
ここまで、できるだけ記録を残すことに務めたのですが、5日目午後の下山途中で体力が0%からマイナスに転落し正確な記録が出来ませんでした。しかし今となっては二度と出来ない体験で、この苦しさは文字でガッツリ残したいと思います。
ということでステラに到着後、私はウフルを目指したのですが、ステラからウフルまで往復2時かかるような状態でバディが待ち続けているわけもなく、バディは休憩もそこそこに下山を開始し私との時間差は約1時間半です。
しかしこの後ハプニングが起こります。

疲労困憊
登山5日目の下りの感想
◾️5日目ルート(下山)
5,730mのステラポイント、5,895mのウフルポイントから3,080mのムウェカキャンプを目指します。一般的には7,5kmを4-5時間で踏破する日です。高度差は一気に下がりますが下山スピードも早い行程です。
この下山時に多くの方が足の指を酷使されたことが数多く書かれており「ストックは必需品」という記事も目にしていたので、私もかなり構えていたのですが、以前にメモしたフットケアが効いたのかどうかはいざ知らず、この登山全体を通じてストックを使ったのは約3時間程度だったと思います。
私の場合、ストックを使うと「腕に力が入って余計に疲れる」と感じて使わなかったのですが、それだけフットケアが有効だったのかもしれません。終わってみれば足の指も爪が割れるでもなし、血豆ができるでもなし、水ぶくれに悩むでもなし、筋肉痛で歩けないわけでもなしでした。終始快適。というか、その後別の国に移動した際に無防備で10キロ近く平坦な場所を散歩した日に右足小指は見事に水ぶくれになり、その後の日程で終始右足の小指が痛かったという…。
足のケアをすると「ここまで疲労感が違うのか」というぐらい快適でした。
ところで…
私達は約1時間半の時差で下山行動をしていたはずですが、私が視界に捉えたのは4日目に無理矢理4時間の睡眠時間を確保した4,640mのバラフキャンプよりも頂上寄りの4,800m地点コソボキャンプ(Kosovo Camp)辺りです。
ここを通過してムウェカキャンプへ進むのですが、コソボキャンプ付近から遠目に見てもバディの様子がおかしいことに気づきました。
◾️5日目下山時の装備
バラフキャンプまでは登山時と同じ防寒服装でしたが、そこを抜けてからはダウンを脱ぎました。下山とともに高度が下がり、少しずつ暑さを感じるので当然ですが、この時に生涯忘れない記憶として「4,000mを越えたら完全防備」という知識がインプットされました。
◾️歩行スピード
このルートの一般的な下山でもスケジュールを考えますと登山スピードの2-3倍の速度で歩かないとムウェカキャンプに着きません。まして私は12時ごろにステラポイントを下り始めており、そこから4-5時間でムウェカ到着は無理な話しです。
でね、私、かなり目が悪いのですが、遠目に見てもバディの異変を感じたので下山ペースを上げました。近づけば近づくほど緊張感が増したので、可能な限りペースを上げたのですが、これが後々悲劇を生みます。
とは言っても「普通だったらこれぐらいのスピードで下山するんだろうな」というペースにしただけで、私にとって快適なペースではないというだけの話しです。
◾️ハプニング
かなり必死で追いかけたつもりなんですが、結局歩きながら追いつくことは出来ず、合流できたのはバラフキャンプが目と鼻の先の場所でした。
で、以前に触れましたがキャンプ地1-2キロ手前になると一番若いポーターがメインガイドの荷物サポートに戻ってくるのですが、ポーターが持ったのは人間!おんぶされて下山する様子を見て「こりゃ、ただならぬ事態かも」なんて思いながらバラフキャンプで合流しました。
下山時の行動は正確な時刻が書けませんが合流時刻は14時過ぎだったと思います。普通に行程が進めば12時前後にランチ休憩する場所を14時過ぎにウロウロしているわけです。しかも我々は未だランチを取っていませんから、まともに過ごせばムウェカキャンプ到着時間にバラフキャンプ出発という感じですね。
しかしバディはステラポイントで燃え尽きてたんですね。
4日目を空腹と睡魔の両方に耐えながら制覇し、5日目は殆ど寝ずに真夜中のアタックですから丸2日寝ないで行動し疲労困憊。
バラフキャンプで開口一番「歩けないからレスキュー呼んで!」という言葉に私も完全に目が覚めました。が、そういう私もアタック前夜は食事より睡眠を優先して登り、バディの異変を感じハイペースで下山したのでちょっとずつ体調異変を感じていましたが、そうも言っておられず…。
この「レスキュー呼んで」は体力が回復してからは笑い話なんですが、本人は真剣にそう思ったことで、極限に達していたことは間違いないわけです。
普通の意識だと「頑張りたい」と考えます。
でも無意識では体が「休ませてくれ〜」と猛アピール。
すると自分の意識も「ちょっと助けて」と思ったことが口に出る。
この調子だとムウェカキャンプどころか歩くことすらままならない状態で作戦を練るわけですが「レスキュー呼んで」と言われて「ヘリを呼ぶ」なんて訳にもゆかず、とにかくバラフキャンプで少し静養時間をとることになりました。
既に食事が準備されておりゆったりした演出は準備OKなんですが、ここにきて私も体調が悪化し「食事が喉を通らないから…何かジュースある?」と聞いてマンゴジュースを2杯飲み休憩&睡眠へ突入。
サラっと書きましたが登山5日目に4,640mでマンゴジュースがポンと出てくるのですから有難い以外の言葉が見つかりません。
約2時間後にチーフガイドが決めたことは5日目の目的地を「ムウェカキャンプからミレニアムキャンプ(ハイキャンプ)へ変更する」ということでした。まぁ、そうしないと2人共に壊れますよね。地図を見ればステラからほんの少し下山してノックアウト状態というのがよくわかります。

キャンプ地をムウェカ(白線)からミレニアム(赤線)へ変更!
ということで現在地バラフキャンプでの滞在時刻が既に16時を回ったこともあり、ここでの食事は昼夜兼用という認識にし、バディの気力が回復したらミレニアムキャンプを目指すことになりました。ミレニアムでは寝るだけという理解です。
この作戦だと翌日の下山時刻も遅れますが、そんなことはどーでもいいですね。
スマホデータを見た限りではバラフキャンプ出発は17時頃のようです。(所々でスクショしておりザックリとした時間は掴めます。)
出発時にバディが「歩く自信ないなぁ」と言ったのをはっきりと覚えています。でもね、既に体力を使い果たした状態でも気力を振り絞って歩いてくれました。もうね、チーム全体が臨戦態勢というピリピリ感が伝わってきます。

メインガイド、サブガイド、ウェイターの3名でサポート
ちなみにミレニアムキャンプの旧名称は「High Camp」らしく、キャンプ地の看板もそのように書かれていました。地図によると3,790mに位置します。看板には3,950mって書かれてましたけどね。
◾️到着後と消費水量と睡眠時間
ミレニアムキャンプ到着は18:40頃です。既に私も体力がマイナス状態ですからフラフラしながら歩いており、辺りは暗くなり始める手前でした。本当によく頑張りました。バラフからミレニアムまで標準的なペースで歩き続けましたから。我々2人の今までのペースからすれば超速です。
5日目は真夜中の1時から約16時間動き続けてミレニアムキャンプ到着。
下山時の水分消費量は約1.5ℓでした。午前と足すと「2.5ℓ+マンゴージュースコップ2杯」ですからかなり水分補給しましたね。
バラフキャンプで1時間半ほど昼寝し、ミレニアムキャンプ到着後も19時頃には就寝。翌朝6時頃までダラダラしていたのを足すと睡眠時間は約8時間です。
ということで、キリマンジャロ登山中はアタック日を除き毎日平均8時間寝ていたことになります。本当にどこでも寝ますよ。寝ないと死んじゃうから。
◾️高山病対策
アタック前日(登山4日目)の夕食を食べずにサミット制覇したものの、アタック日(登山5日目)の下山をハイペースにして食欲を落とし、結果2日間水分だけで過ごしていたにも関わらず、最終下山日(登山最終日の6日目)は強烈な胸焼けと吐き気に襲われる1日になりました。
素人丸出しの行動です。自分に何か出来るわけでもないのに気持ちだけが焦って歩くペースを上げたせいでオーバーワークになりました。こういう時に焦ったところで何もできませんし、ガイドの冷静な判断を仰ぐのが最も正しい対応だと痛感しました。
この5日目にミレニアムキャンプに到着した時はさほど気にならなかったのですが、夜中0時を回った辺りで目が覚めて強烈な吐き気と格闘しました。が、食べてないので強烈にムカムカしても嘔吐するものがない状態で、5分ぐらいすると落ち着いて再び寝るのですが2時間ほどすると再び目覚めてムカつくの繰り返しでした。
ただね、既に高度が下がり始めているせいか頭痛が無く助かりました。これで頭痛が重なったら私が「歩けないからレスキュー呼んで!」状態になります。
ということでステラポイントからミレニアムキャンプを目指す下山行程もあるらしいのですが、ここまで下山に時間をかけた上での日程変更というイレギュラーも体験する5日目でした。ちなみに高山病の薬は飲まずに下山しました。

Millenium Camp (High Camp)
でもね、全ては頂上を踏破した後の出来事だから気持ちも楽です。「誰でも登れる山」と言われていても登頂を断念せざるを得ない方もいらっしゃる場所ですし簡単には下山さててくれません。登った方々全てが違う思い出を持っている場所ですからガイドがエキスパート化するのも納得できます
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